ハンドルネームは:【ツヨシ】

決勝─2話
HN:ツヨシさん
【51%49%】





「今日だけは勝ちたいっ!!」


次の500円分の玉が無くなりかけた時だった。








逆




「久し振りに、パチンコ打たない?」

さおりと連絡を取らなくなってから数ヵ月後、

俺はやきもきした気持ちを払拭すべく、意を決してメールした。




MAILER-DAEMON

送信されたメッセージはお届けできませんでした。



それが彼女の返事だった。



「まぁ、そんなもんか」


特に驚きは無かった。


そもそもこうなった原因は自分にあった。


彼女はいつも、真剣に俺にぶつかって来た。


嬉しかったら100%の力で笑い、悲しかったら泣きじゃくった。



俺は俺で、元々そういう性格でもないのに、

そんな彼女に乗せられ、

無理して明るくしたり感情を出したりする事も多々あった。


だが、

パチンコの負けを俺のせいにされたあの日、何かが自分の中で切れてしまった。


100%の力でぶつかって来た彼女。


自分の過ちを、正面から謝って来た彼女。


そんな彼女が一人の人間として羨ましくもあったし、同時に恐くもあった。



「嫌なら引けば良い」


「決めるのは自分なのだから」




結局、俺は彼女を避け、

逃げるようにまた「海物語」を打ち続けた。



液晶の中のタコやカニやサメは、

時折表情を変えはするものの、

それは決して俺を傷付けたり、

本当の意味で動揺させたりはしない。


ただ、そこで規則的に泳ぎ、

昨日も今日も明日も、変わらずそこに居る。


変わらずに。


俺はたぶん、彼女が一番求めてきた時に目を背けた。



それ故の、

「宛先不明」


だから驚きはない。


話としては、

再び彼女と連絡を取り合い、

恋愛関係になったりすれば、少しは盛り上がるのだろうが。


ただ、これが現実。


これ以降彼女とは何も無いし、

またそれに対して特別な感情も無い。


自分で言うのもなんだが、

つまらない男の現実とは、実に下らないものなのだ。





牙狼魔戒閃騎鋼


最近はドップリこいつにハマっている。


「大ヤマト2」にビビり、

「海物語」をチビチビ打っていた自分が懐かしい。



今ならさおりの気持ちが分かる。


平凡な現実。


先行き不安な未来。


下らない過去の恋愛(と言うのも憚られるが)。


その全てを忘れさせてくれるのは、

圧倒的暴力を持った爆裂機。


牙狼。


これは正にそんな台。



この日も、

下らない日常を少しでも忘れる為、俺は牙狼のシマへ向かった。



1万円使ったところで、215回転。


3円交換なので、もう少し回って欲しい気持ちもあるが、今はどこもこんなもの。


何せ牙狼は、一度STに入ってしまえばこっちのモノといった感じもある。


コイツの連チャンはそれ程強烈だ。





大当たり0 1087回転



これが現実。


特に驚きはなかった。


牙狼で当たらない日なんてよくある事だし、

そのハマりがあってこその大爆発。


「こんな日があるからパチンコは楽しいんだ」


そう自分に言い聞かせ、この日は帰ることにした。


収支:-50000





二日目。


前回と同じ店。同じ台。


朝一から新台でもない牙狼に万札を投入するスキモノは俺くらい。


やるか、やられるか。


ヒリつく勝負を体感出来る、現役唯一の機種。



それが牙狼。


今日は1万円使ったところで238回転。


店の慈悲か。


昨日とは明らかにヘソのデカさが違う。


「演出も賑やかだし、今日は行けるかも」


好調な回転率が、根拠の無い自信を後押しした。





大当たり0 1215回転



特に驚きはなかった。


ただ、

よりによって、

今この段階で二日間にわたる当たりナシ。


持っていないというか何というか、とにかくツイてない。


「このままでは終われない」


独りつぶやきながら、この日も手ぶらで帰る事となった。


収支:-50000





三日目。


いよいよ最終最後の日。


資金的にも日程的にも、今日当たらなければ、

当たりナシとして稼働日記を報告しなければならない。


「それはそれでネタになるか」


自虐的な自分がチラと顔を覗かせたが、

何よりそれでは自分自身、納得が行かない。


ここ2回の稼働で回した回転数は、「2302回転」。


発展した主要リーチ

クルス  5回
魔導列車 2回
ホラー  3回
邪眼竜  4回
ゼロ   2回
TVホラー 2回


肝心要のエフェクトは何れも青か緑で、

牙狼群など、隣の台でしか拝んでいない。


このままでは引けない。


気持ちだけではどうにもならないが、

強い心で今日も牙狼に立ち向かう事にした。


向かったのは例の如く同じ店、同じ台。



思えばさおりも同じ店、同じ台で、

爆裂機「大ヤマト2」を追っていた。


彼女は結局根負けし、

挙げ句、全ての負けを人のせいにしようとした。



俺はどうだろうか?


今日も引けなかったら、

流石に卑屈になってしまうかも知れない。



でも、大丈夫。



俺の隣には誰もいない。


人のせいにしようにも、それが出来ない。


自分との闘い。


寂しい事なんて何もない。


パチンコはそう言うものだから。


いつだって責任は自分の中にある。



当たり前の事を考えていると、

今日も虚しく最初の10000円が消えた。



「181回転」


前回、前々回に比べ、明らかにワープからの入賞が少ない。


店長よ、何故ハマり続ける俺から抜こうとするのか。


が、文句を言っても始まらない。


嫌ならそこで引けば良いだけだ。


決めるのは自分なのだから。




「今日だけは勝ちたい!!」


何故だか不意に、そう思った。


もちろん、俺は続行した。



そして、次の500円分の玉が無くなりかけた時だった。



◆191回転

ピュピュピュイ!!



逆エンブレム。


たった一人格闘する牙狼のシマに響き渡る、

控え目な、でもこれ以上無い反撃ののろし。








心滅

心滅全回転。



「とうとう目を醒ましやがったか」


液晶内で圧倒的な存在感を示す、

心滅牙狼。


これから起こるであろう2000発ループに期待せずにはいられなかった。






魔戒スーパールーキー


俺に与えられた称号は、2連チャンを意味していた。


驚きはない。


ST機の牙狼では、スルーする事だってままあるのだから。


そう、驚きはない。


だが、正直落胆はある。



同じ当たりとは言え、

あんな派手な演出を見せられては、期待するなと言う方が酷だ。


半ばヤケになりながら再び回し始めると、

それはすぐにやって来た。



◆7回転

エンブレム擬似3(バイブ有り)

→竜陣牙狼

→レオリーチ

→FOG&牙狼群

→邪眼竜



申し分ない。


これ以上の予告を求めるなら、もうプレミアしかない。









確定


ドキドキしていた。


普通なら確定予告が出た時点で、

後は魔戒か、通常か。


その一点のみにドキドキする要素がある。


そう、普通ならば。


リーチは一旦外れ、通常画面に戻ってからの再始動当たりという、

何とも勿体つけた当たり方と相成った。


そして画面に現れた数字は金ぴかの「333」。


即ち、ST確定。



いよいよドキドキが止まらなくなった。


普通、この時点で気を揉む事と言ったら、


「果たして何連チャンしてくれるのだろうか?」


とか、


「まさかスルーしてしまわないだろうか?」


とか、まぁそんなところか。



だが、リーチ序盤から俺をドキドキさせていたのは全くの別物。


まだまだ鼓動は休まらない。









保留


ドキドキの原因は、魔戒ST突入後、

一回転目に潜む不気味な牙狼剣保留。


「もし、この激アツ邪眼竜リーチが当たって魔戒に入っても、

最初の避けられない一回転目(牙狼剣保留)で1/399ないし1/99の確率で当たりを引き、

それがヘソ当たり内訳49%の単発を引いてしまうかも知れない」


「そんな悲惨な目に遭うならば、

いっそこの激アツリーチは外れて欲しい」


パチンコを打って来て、

これ程微妙な心境でリーチを見守った事はない。


普段はもっと心踊らせてくれる牙狼剣保留。


今日ばかりはひどく危険な香りを漂わせていた。



だが一個手前のリーチは、

ご丁寧にもレインボープレミア付きの魔戒ST入り。


ドキドキが止まらない。


とは言え、まだ絶望と言う程のものでもない。


過去に何度かザルバ保留を残してST入りした事があるが、

その何れもリーチどころか、リーチの煽りすら無かった。



そう、このリーチは当たって良かったのだ。


そもそも、外れた方が良いリーチなどある訳が無い。


これはパチンコ。


一つでも多くの玉を得て行く勝負なのだから。


ラウンド消化後、運命の一回転目。


「ドゥトゥドゥン!」


暗転へ誘うリーチ煽りの低音が、俺の胃を締め付ける。


白地に映った文字は「魔獣」。


大丈夫、弱い予告だ。



とは言え、普段は張り切って押すボタンが押せない。


ボタンを長押しして、もし画面奥からホラーが出て来てしまったら…



押せないっ…


とても押せないっ…!!


画面を見て見ぬ振りをして、ひたすら止め打ちに勤しんだ。


「ふぅ、やり過ごしたか…」



安心した刹那。


突如右からライターが飛び出し、無情にも画面を燃やし尽くす。


現れたホラーは、


ギギル(星4つ)


女三人組の新体操ホラーだ。



「大丈夫、こいつらは強い」


事実、

俺はST中に何度も彼女達に「英霊進軍」をはじき返されていた。


ここで黄金騎士が繰り出した技は、



「咆哮渦炎」


弱攻撃。


大丈夫。


こんなの、

ST中に赤保留と魔導列車背景が複合しても首を傾げるレベル。


まず、無い。


「大丈夫、大丈夫」




それは、

通常なら絶対に抱くことの無い、

目の前のリーチが外れる事への自信。


期待。











笑えば


初当たり2回、総大当たり4回。


そして大ハマり。


絵に描いた様な魔戒ST一回転落ちを食らい、大敗した。


負けた事自体に驚きはない。


だが、

今までパチンコを打って来て、

ここまで長い時間ドキドキさせられた事は無かった。


結果は最低最悪なものだったのだけれど…






或る日、一通の封書が届いた。



「入籍しました。旧姓:成田さおり」


結婚式の招待状だった。


彼女とは一度だけ年賀状のやり取りをした事があるのだが、

律儀にも、今はすっかり疎遠になった、

決して良い思い出とは言えない俺に招待状を送って来てくれた。



「こんなの、行ける訳がないだろ…」


今年一番の苦笑をした。





人にはそれぞれ信条があり、プライドがあり、相入れない部分が必ずある。


パチンコという、ある意味共通の敵がいたあの頃。


それが、危うい二人のバランスを保ってくれていた。


だが、そのバランスも崩れ、やがて決別。


それでも彼女に少しも怒りを覚えず、

招待状を見て心が和んだのは、

彼女が大切な人だったし、感謝もしていたからだと思う。




招待状の欠席に丸を付け、

ポストに投函する為、外へ出た。


祭りの太鼓が賑やかだ。


「ドゥトゥドゥン!ドゥトゥドゥン!ドゥトゥドゥン!」



「明日も牙狼打つか。」





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