決勝─1話
HN:加藤さん
【加藤の日記B】
若者でもなければ中年でもない。
そんな年齢の中にいる。
こんな人生を送るとは思ってもみなかった。
そして、パチンコで勝てるようになるとは思ってもみなかった。
※昨日は負けたけど。
パチプロという人種を知った時は衝撃だった。
パチンコで勝つという仕組みには確かな説得力があった。
流れや駆け引きといった曖昧さを廃した【数字】という絶対的な根拠があった。
俺は痺れた。
顔は僅かに笑っていただろう。
世の中には自分が知らないだけで、
想像もつかないような世界がある。
俺の知り合いの爺さんは、
フィリピン人の女に800万円以上つぎ込んだ後、女と音信不通となった。
信じ難い人もいると思うが、本当の話だ。
老後はフィリピンに移り住む予定だったらしい。
しかし定年間際、
現地に行ってみたら、女の親族に追い払われたらしい。
今は僅かな年金を遣り繰りして、0.5円パチンコで日々を消費している。
住民税の支払いや車検、千ハマリや潜伏スルーが重なると、俺に金を借りに来る。
この爺さん、
好きな機種は仮面ライダーMAXだが、
仮面ライダーとウルトラマンの区別がついていない。
信じ難い人もいると思うが、本当の話だ。
なかなかに愉快な爺さんだ。
隣で吸う煙草が旨い男でもある。
俺は自分の人生に対して、大きな不満があるわけではないし、何かに満足しているわけでもない。
特に考えは無い。
何も無いが、悪くは無い気分だ。
日々をパチンコで凌ぎ、雨に喜び、晴れに感謝する。
そういうのが俺にふさわしいと思う。
先祖の墓を前にして、そう思った。
霊魂など、とても信じられないが手を合わせて目を瞑った。
クソ暑い中、墓参りを済ませた翌朝。
蝉の鳴き声で目を覚まし、水道水が冷たいうちに顔を洗った。
この日は朝からタロウへ。
等価店で千円20回前後をうろついている台、大喜びできる台じゃあない。
それでも、この位の台が落ちているという事は、やはり人気機種なのかと思う。
負けすぎて笑えてくることも多いが、確かに面白いと思う。
なかなか勝てない分、勝った時の喜びも大きいからか。
MAXタイプのシマで揉まれていると、何かと物思いに耽る事が多い。
「もっと集中して真面目に打てよ、自分」
そう思うこともあるが、俺は適当に打って適当に勝つのが好きなので、わりかし雑に打っているときもある。
両隣の台が連荘し始めると尚更だ。
こういう機種は、2千嵌りの隣台で10万勝ちなんて光景も起こりうる。
「何故、自分だけが・・・」
そう思うこともあったが、もう慣れた。
開き直った言い方をすれば、
今更10万勝とうが負けようが、もう関係ない。
俺の収支は、もはや、そういう状況になっている。
やるならやれ。
そんな大きな気持ちにさせてくれるのが、タロウの魅力だ。
そうでもしないと、やっていられない、というのもあるが。
この日は、どストレートに嵌り続けた。
小当たりダークキラーでカウンターがリセットされ、隣の若者がセグを覗き込んでくる不可解な現象も発生した。
若者よ、どっちにしろ止めねえから安心しろ。
それにお前は確変中なんだから、見ても仕方ねえだろ。
それとも台交換するか?
もしも幸福というものが、他人との比較の上に成り立つのだとしたら、俺はいらないと思う。
心からいらないと思う。
他人を指差しして得られる「自分はマシ」という下卑な優越感は、ゴミだと思う。
そんな風に思っている俺だから、
自分が絶賛クソ嵌りしている中、両隣台が超絶大連荘しようが構わなかった。
※悔しかったけど。
隣は関係なく、黙々と回し続けた。
他人の出玉は、絶対に自分のモノにはならない。
どんなに羨ましがっても、それは他人のもの。
そんな感情で自分を腐らせては駄目だ。
腐らせるだけ無駄だろう。
誰だって嵌るし、誰だって当たる。
自分だけが特別じゃあない。
俺だって嵌るし、俺だって当たる。
ひたすら回して、ひたすら待つ。
それしかないし、やるしかない。
やった。
やって、やった。
この日は初当たり1回で捲くった。
MAXタイプらしい一撃の勝利だった。
勝ち額は大きなものではなかったが、
連敗を脱した安堵感と、1日を終えた開放感が相まって、しばし余韻に浸っていた。
今日も1日が終わる。
この日の収支
プラス12500円
続く翌日
土曜日だが店回りのつもりで部屋を出た。
2店目、気になる台のヘソが開いていた。
開いていると言っても、平行ではないだけで大それたものじゃあない。
それでも打ててしまうのが、この機種の恐ろしいところでもある。
戦国随一、太っ腹な漢
織田信長さん
(享年49歳)
牙狼の右側以上に素晴らしいアタッカーを備えた天下烈伝。
お盆までは、この機種で凌ぐのも悪くは無い。
道釘が壊されていなかったので、回りの方はぎりぎり及第点の様子。
1万7千円使った322回転目で当たってくれ、早々と1万発近い出玉を抱える事ができた。
「よう、兄さん。今日は出ているじゃあねえの?」
不意に話しかけられた。
振り返ると、常連の爺さん(冒頭の人物)だった。
線のように深い皺と、クリっとした子供のような目は、厭味でない愛嬌がある。
「おう、爺さん。・・久しぶりじゃあねえか。最近どうだい。」
「駄目だあ、朝一でちょおっと当たって、もう飲まれちまった。」
「そうかい。今日もライダーかい?」
「ああ。トオーってやつな。」
「爺さん、ライダー好きだなあ。」
「ああ。アレが一番面白れえわ。」
「ふーん。そうかい。」
「なあ兄さん、頼みがあるんだけど。」
「ん?・・・金かい?」
「いやいや、金じゃなくてさ。車乗せてくれねえかい。」
「は?いいけど。・・・帰り道ってこと?」
「そうそう。時間は何時でもいいや。」
「ああ、‥じゃあ5時か6時ぐらいで?」
「それは兄さんの都合で構わねえわ。わりいね。いやあ、兄さんが見つかってよかった。」
話をつけると爺さんはスタスタと歩いていった。
まあいいや、明日も釘は変わらないだろうし。
その後も2回の初当たりが引けて、まあまあの勝ち額となった。
休憩所で店員と喋っている爺さんを見つけ合流した。
帰りの車で爺さんが喋る。
「兄さん?」
「ん?なに?」
「明日は送ってくんねえかい?」
「・・・送るって店までかい?」
「そう。」
「え?・・・爺さん、車は?」
「あれな、孫にやっちまった。大学の入学祝に。」
「・・・え?、じゃあ、爺さんの足がねえじゃねえか。」
「うん。だから頼む。」
「いいけどよお、‥毎日は無理だぞ。」
「うん。でも明日は頼む。」
「分かったよ、明日な。」
爺さんをアパートの前で降ろし、自分の部屋に向かった。
アイスでも買って帰るか。
まだまだ暑い時間だった。
この日の収支
プラス38000円
そして翌日。
「おーい爺さん。行くぜえ。」
「おう、あんがとな。」
爺さんを拾い、店へと向かう。
「なあ、爺さん。車がねえなら、もっと近い店に変えた方が良くねえかい?」
「いやいや、あの店に行ってくれ。」
「まあ、今日はいいけどよ。」
店に入り、天下烈伝を確認すると釘はそのままの様子。
下ムラ時の回らなさに不安を覚えながらも、回していった。
ようやく500回転を超えたとこで、虹色の保留が発生。
STに突入するも4Rしか引けずに、残念な出玉となった。
少し休憩しようと思いトイレへ向かった。
途中でじいさんを見かけたが店員とまたまた談笑中。
楽しそうで何よりだが。
この日は初当たりが順当に引けたものの連荘と16Rに恵まれない結果に。
夕方には気持ちが切れてしまい、帰りたくなったので爺さんを探しに行った。
「おい、爺さん。そろそろ帰るぜ。」
「おう、あんがとな。」
爺さんが缶コーヒーを差し出してきた。
礼のつもりなんだろうが。それなら借りた金を返して欲しいと思う。
強烈な西日に目を細めながら車を走らせた。
「なあ、爺さん?」
「おう、なんだあ。」
「あの店員と仲良いね。」
「ん?おう、分かるか。」
「・・・好きなの?」
「いやいや、そうじゃねえって。俺がじゃなく向こうが寄ってくるのよ。全く。」
そんなわけねえだろ。
人から借りた金を返さずパチンコに行き、親類に見栄を張って車を手放す、
それでいて女にちょっかいを出すこの男。
なにかと突っ込みどころが満載だが、その人の人生は、その人にしか分からないところがある。
人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり。
美味いんだか、不味いんだか分からない缶コーヒーを飲み干した。
「ほら、着いたよ。」
「おお、今日もあんがとな。」
入れ歯でない頑丈で大きな歯を見せて、ニヤリと笑った。
「おい、爺さん。」
「ん?」
「明日も行くかい?」
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