「6、7、ハチ!みつばちハッチ!
貴方のハートもアタシの針でチクっとしちゃうゾ☆
蜂須賀ミルキーです!!
今日もよろしくねっ♪」
両頬の拳を顎につけて、キメ顔。
かん高い声に、ファンの皆さんの歓声が重なる。
少し屈んで、会場の端から端を目標に思いっきり手を振ると、
会場いっぱいの"ミルキーコール"。
進行役のナルミも、これにはタジタジで。
マイクを握っているのも忘れて、
え、えっとぉ・・・なんて戸惑った声を出してた。
「それでは聞いてください。
新曲”ぴゅぴゅうっと、春一番♪”」
ナルミの曲紹介の後、
間髪入れずにマイクを握った。
「今日もぉ、はーりきってイッちゃいましょー!」
本来ならナルミに飛ぶはずの声援を奪うように、掛け声を入れた私に、
みんなの視線が集まる。
99%の興奮、1%の怒気。
メンバーから向けられる視線に、
片目を瞑って小さく舌を出した。
ナルミが何か言いたそうに僅かに口を開いたけれど、
流れ出したイントロに、口を噤んだ。
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「だからさー、
悪かったって言ってんじゃん」
「アンタ何回目よ?
ああやって他人のマイクパフォーマンス潰すの。
その度に反省した的なこと言うけど、全然反省しないじゃん!」
折角丁寧に手入れされた黒いロングの髪を逆立てて、キョウコが言った。
正面からぶつけられる敵意を追い払うように、
私はがしがしと頭を掻いた。
「あーもー面倒くさいな。
だったら潰されないようなマイクパフォーマンス、したら?
ナルミがイマイチ足りないから、私が盛り上げてやってんじゃん。
お礼こそ言われて当然なのに、
何で怒鳴られないといけないわけ?」
そこで、キョウコの隣にいたナルミがわっと泣きだした。
キョウコの怒りは頂点に達して、
私に向かって振り上げた掌をマネージャーさんが押さえた。
「まあまあ!
キョウコちゃん、
今日はそこまでにしようよ。
ナルミちゃんも、ね?
そんなに泣かないで。
この後営業でしょ?」
最後に、と私に視線を投げたマネージャーは、さっさと行け、とばかりに顎をしゃくって合図した。
キョウコとナルミの茶番の間に支度を済ませていた私は、荷物を背負って、控室を後にした。