パチ屋の休憩所。
店の隅にある自販機の前に、2組のテーブルと椅子が置かれ、
その近くに大型テレビがあるだけの休憩所。
最近のパチ屋では漫画コーナーが充実して、
椅子もソファーのような長時間くつろげるものになっているところが多く、
それこそ金を持たずにパチ屋に来ても、無料の漫画喫茶のように1日を過ごせるような感じだが、
この店はそうではなく、
小さな駅の近くにある、小さな店なので、
この地域のおじいちゃん、おばあちゃんが、パチンコの合間にくつろぐだけの地味な休憩所だった。
俺が自販機で缶コーヒーを買うときも、
「このおばあちゃん、この時間にいつも座っているなあ」
と思うぐらいのもので、その休憩所で立ち止まる事はなかった。
ところが、ある日。
その休憩所に人だかりが出来ていたので、驚いた。
この店の休憩所にしては、見た事もないほどの人がテレビの前に集まっていた。
なにか大きな事件や災害でもあったのかと思い、
俺もパチンコを打つのをヤメ、そこに行ってみると、
大相撲の千秋楽、琴奨菊の優勝がかかった取り組みが始まろうとしていた。
なるほど、と思った。
俺はどの競技でも、外国出身とか日本出身とか、そういう事を気にして応援することはないが、
その俺でも、10年ぶりの日本出身の力士が優勝というのは、
見れるもんなら見てみたいという気持ちがある。
ふと考えてみると大相撲ってのは、
その取り組みだけを見れば、ほぼ一瞬でカタがつくので、
サッカーや野球に比べれば、パチ屋との相性はいい気がする。
たとえばサッカーで日本代表戦があり、もしその試合を見たいときは、
パチ屋の休憩コーナーに行かずに、家に帰って見ると思う。
実際にそういう日はパチ屋の稼働が下がる気がするし。
で、そんな事を考えながら、人だかりの後ろの方でテレビを見ていると、
いよいよ琴奨菊が土俵に上がった。
おそらく、その瞬間、
万が一に対戦相手の豪栄道の親戚、知人でもない限り、
パチ屋の休憩所にいる人の気持ちは一つになったと思う。
琴奨菊に勝ってほしい、優勝して欲しい、
何が何でも勝ってほしいという人もいれば、
勝てるかなあと不安に見守る人もいただろうが、
その場にいた皆が、琴奨菊の取り組みを見守っていたという意味では、
パチ屋の客の気持ちが一つになっていたと思う。
これはパチ屋の中としては、非常にまれな光景であると思った。